「きちんと測られた実験には失敗というものがない」 – 小林俊一
21世紀を迎えた現代社会においては、エネルギーの変換や制御、ナノサイズ化による新規物性の発現など、高度な機能を有する新しい材料が強く求められています。なかでも新しいエネルギーを産み出すための機能物質は、存続可能な人類社会のために今後の発展が希求される分野です。
本研究室では、物理的な固体物性論と、化学的な物質設計アプローチとの協奏的な融合を目指して、「物質を創り出し、そのふるまいを調べ、評価する」立場から、自然の本質と直接向き合う実験科学に立脚した研究と教育を行っています。特に金属酸化物半導体や導電性セラミックスなどの光・電子・磁気物性に関して、エネルギー変換や物質変換などに優れた機能を示す物質の探索・合成・解析を進めています。
「大学の研究がどうあるべきか」という命題には、答えることがどんどん難しくなって来ている昨今ですが、大学の本分であるべき「知」と「智」を、微力ながら最大限推し進めたいと考えています。
【研究のキーワード】
熱電変換材料,酸化物半導体,エネルギー変換材料,導電性セラミックス、熱伝導率、熱制御材料、低次元ナノ物質、自己組織量子構造,光触媒,分子集合体、無機有機複合体,固体化学、無機材料化学、工業物理化学
研究内容
無機物質は、化合物の数では有機物質にかないませんが、その物性のバリエーションは圧倒的に広大です。現代の高度なテクノロジーにおいては、構造・エネルギー・情報などいずれの分野でも、優れた機能を有する無機物質がキーマテリアルとなっています。本研究室では、無機材料設計や、有機分子を利用した自己組織的量子構造の形成などを駆使して、結晶構造と微細構造制御の両面から新物質を合成し、新しいエネルギー変換・エネルギー制御・物質変換機能物質の開発を行っています。
なかでも、その特異な電子物性と環境適応性の点から近年注目度が高まっている酸化物熱電材料については、世界に先駆けて研究に着手し、新規酸化物熱電材料を次々に開発してきた実績を持っています。現在もn型酸化物の熱電性能記録を更新し続けており、世界的にも先導的な研究拠点の一つです。
また、有機分子の自己集積機能を利用すると、1〜2nmという原子レベルの厚さの2次元的酸化物が規則正しく積層し、極めて高い空間規則性を持つナノ超格子が自発的に形成されることを見出しています。これを酸化チタンや酸化鉄などの酸化物半導体に適用し、特異な量子物性が発現するシングルnm領域における最先端の無機ナノ物質開発と新しい光・電子・磁気機能の探求を行っています。
酸化物系熱電材料
●未利用熱エネルギー回収のための酸化物熱電材料の開発
微小な温度差からでも直接電力を産み出せる熱電変換は、騒音・振動・排出物を一切伴わず、低品位の未利用熱エネルギーを電気エネルギーにアップグレードできる分散型発電技術として期待されています。従来型の重金属化合物半導体とは一線を画し、無害で耐熱性に優れ、高強度で軽量な酸化物熱電変換材料の開発を世界に先駆けて進めており、実用的な多結晶材料ではn型・p型とも最高性能を達成するなど、先導的な研究開発拠点の一つです。熱電材料には電気をよく通しつつ熱は通さないという矛盾した性質が要求されますが、ナノ構造化によりフォノンと電子を独立制御する可能性を見出し、一層の性能向上を進めています。
- 新規酸化物熱電変換材料の材料探索
- 電子とフォノンの独立制御を目指したbuilt-in extrinsic nanostructureの導入による新規熱電変換材料の創出
- 金属酸化物の熱電物性におけるアニオン副格子の構造とダイナミクス
- 希土類元素による局在スピンの導入や電子相関効果による熱電特性の増幅
- 酸化物熱電材料バルク焼結体における粒界制御
- 酸化物熱電変換材料の非化学量論制御と輸送特性
- 熱伝導を制御する新規無機材料の開発
●中高温廃熱回収用酸化物熱電モジュールの開発
高性能の酸化物熱電材料を用いた熱電モジュール製造の基礎技術開発と長期安定性評価、さらに高速高密度実装法の開発を行っており、廃熱利用に有利な低コスト高出力密度酸化物熱電モジュールの実用化を目指しています。
- 微細構造制御によるn型およびp型材料性能の向上
- 酸化物間および酸化物-金属間の低抵抗接合技術
- モジュールの長期安定性の高速評価技術
低次元ナノ物質
●低次元量子閉じ込め構造を持つ無機ナノ物質の創製と物性
物質を数nmサイズまで微細化すると、量子的な閉じ込め効果のためにバルクとは全く異なる性質を示すようになります。有機分子の自己集積機能を利用することにより、1〜2nmという原子レベルの厚みしかないTiO2やFe2O3などの酸化物半導体ナノ超格子が室温の溶液中で自己組織的に形成されることを見出しており、光触媒や磁気記録材料、エネルギー変換・貯蔵材料などの新しい機能物質開発への展開を進めています。
- 酸化チタンナノ超格子の自己集積合成と光触媒物性
- 酸化鉄ナノ超格子の自己集積合成と特異磁気物性
- 規則化ナノ層状酸化物半導体の薄膜化と層間ナノ空間操作による機能化
●特異量子物性を示す超集積構造の構築とナノ構造物性
ナノ物質をさらにナノオーダーで規則正しく空間的に配置した場合に何が起こるか、については、まだほとんどわかっていません。精緻な自己組織化により、ナノレベルの構造と物性や機能が強く相関した系を創り出し、その構造情報から機能の発現機構を解き明かすことを目指しています。精緻な空間規則性を持つ低次元ナノ超構造の特異な光・電子・磁気特性の解析と新規機能材料への応用可能性を検討しています。
- 低次元量子構造ナノ物質の自己組織化による低次元ナノ超構造の構築
- 精緻な空間規則性によりナノ空間増幅相互作用を発現する超集積量子構造の創製